老後の資金計画は出口から

毎年引き出して使うお金について

老後に年金以外の定期的な収入を確保できている方は、お金についての不安感はあまり大きくならないと思います。そのため私は老後であっても働く手段を持ち、活き活きと暮らしていくこと目指して行動することをおすすめしています。しかし、必ず全員が十分な収入を確保できるわけではないことも理解しています。そこでもしあなたがそうなるのではないかと想像できるのであれば、今からあらかじめ老後に引き出して使っていける資産を積み上げておく必要があるともいえるのではないでしょうか? 資産、資金計画について多くの情報は、今何を手段に選んで投資や運用したらいいのか、そして始めるなら「今だ」というように即行動を提案します。あわてて行動してしまうその前に、まず「老後に使っていく考え方」を確認しておきたいと思います。

あなたは目的が不明確なまま手段先行型で資産形成、資産運用をしていませんか?
しかし目的は何?と言われても30年以上先の暮らし方を明確に語るのはなかなか面倒で考える緊急性は高くないように感じてしまうし、考えるモチベーションを維持することはとても難しいですよね。そこで先に「老後にお金を使う方法」を確認します。毎年、毎月に使える金額を見えるように整えて、あなたの老後の生活のイメージを広げた上で、目的を考えていこうと思います。

毎年どのようにお金を引き出して使っていくか?

その手順は以下のように考え、準備していくと良いでしょう。

  1. 毎年の引き出し可能額を決める
  2. 引き出す方法を決める
  3. 投資信託などの解約の仕方、継続の仕方(出口戦略)を決める
  4. 自動的に受け取れる仕組化をする

それでは、順番に具体的に準備していきましょう。

1.毎年の引き出し可能額を決める。
  「年末の金融資産の時価評価額」を「バランスシート」の資産のところに集計する「金融資産(年金資産除く)」を準備します。そして「平均余命(100歳―現年齢)」を算出します。このときの金融資産に対して、あらかじめ今後に使いみちがわかっているお金の分は差し引いておきます。例えば、住宅にかかる費用です。この金融資産の数字化には「万が一」の不安が拭い去れない方は、20%程度をあらかじめ緊急資金用として差し引いておくと安心感が得られるはずです。集計するタイミングは、年末でなくても問題ありません。ただし一度集計するタイミングを決めたら毎年そのタイミングで試算を継続することが重要です。

平均余命の計算については4人に1人が生存している年齢(女性95歳、男性90歳)を使っても問題ありません。あくまでもあなたの計画ですから今のイメージにあう数字に置き換えて使っていきましょう。ただしどうしてこの数字を使うのかは忘れないようにメモして置かれると次に見直すときにスムースになるでしょう。これらの数字が準備できたら毎年の引き出し可能額を求めます。大丈夫です。簡単な数式です。

「毎年の引き出し可能額」=「年末の金融資産の時価評価額」÷「平均余命」

具体的に数字を当てはめてみましょう。
65歳から収入は減り、支出が多くなるタイミングになるとします。その時に保有する金融資産の時価総額を2000万円とします。(ここでは特別に差し引いておく不安事項はないとします。)

2000万円÷(100歳―65歳)=2000÷35= 約57万円

57万円÷12ヶ月=約4.7万円 これが毎月引き出せるお金になります。これに、年金資金を上乗せした合計が「老後に毎月使えるお金」になります。

この試算は毎年行うと良いでしょう。それは毎年引き出した後の資産に運用成果を反映すると次の年の引き出すお金になるためです。57万円を引き出した翌年は「1943万円±運用効果=その年の時価評価額」として、34年で割った金額を受け取るようにするためです。

このような見方を基本として、あなたの金融資産の属性を前提条件に反映していくとよいでしょう。例えば、投資信託を購入している場合は比較的に運用効果に変動が大きいので受取額への影響もあるでしょう。一方預金のみの場合は、変動はありません。生命保険会社の個人年金保険や企業が募集している団体割引の個人年金保険に加入している場合は一時収入とし扱って別枠にしておくと良いでしょう。このお金は、余裕枠としておけば安心が増すと思います。

このような視点から老後の資金計画を始めるのには理由があります。老後に毎年、毎月引き出して使えるお金を先に具体的にイメージできること。決めた年数で確実に受け取ることが出来ると分かること。引き出し可能額が把握できることによりあなたが楽しく使っていける暮らし方のイメージの具体性が増すと思うことです。

2.引き出す方法を決める
その年に引き出せる金額がわかったら、年に1回か2回にわけて金融資産を引き出します。
次は引き出す金融資産の順番を決めておきます。投資信託や株式などのリスクが比較的高いものと預金のようにリスクがほとんどないものなど複数の金融資産を持っている場合はあらかじめ引き出す順番を決めておくと良いでしょう。

基本的に複数の商品を所有している場合は、リスクの高いものから順番にまた、所有している割合に従って売却していく方法が無難だと思われます。商品を購入する時にリスク分散について散々検討されていたと思います。(結果はそのとおりにならないことのほうが多いかも知れません。もしそうであれば、途中で計画的にポートフォリオのリバランスを行いましょう。)当時のリスク分散の考え方のままで問題ないようであれば、引き出す、売却する割合もその比率で行うことがよいと思います。

確定拠出年金は指定しておくと自動的に解約処理を行えますが、ご自身で保有する分はご自身で解約指示を出さなければいけません。今後は自動解約サービスが拡充してくるとは思います。そういう意味では、出口戦略の一つとして「引き出しやすさ」を考慮して投資信託の積み立て投資をする場合は、証券会社、投資信託の購入本数を絞っておくということも考慮しておいてもよいでしょう。

リスクのある資産を優先して売却することをおすすめしたい理由は、個人差が大きいですが高齢になるほど認知症になるリスクが増加するためです。そのリスクの一つが、認知症傾向が進むとご自身で売却、解約手続きが出来なくなり、資産が凍結されてしまうことです。昨今は、この認知症による資産凍結の問題が顕在化しています。あなたよりも先にご両親の資産についても対応が必要なリスクとなっています。

3.投資信託などの売却の仕方、継続の仕方(出口戦略)を決める
次は、購入している商品の売却を検討しておきます。購入している金融機関のホームページなどにアクセスして売却出来る方法を調べておきましょう。改めてホームページのアクセスIDやパスワードの管理を見直すタイミングであると習慣付けることも良い効果があります。売却する方法は、金額指定や口数指定があります。売却したい金額を決めたら売却する口数を計算しておきましょう。計算は以下の簡単な数式で求められます。

「売却する口数」=「売却したい金額」÷「基準価額」x「基準単価」
ただし、売却注文時点での売却時の基準価額はわかりません。ですからこの計算で求めた口数はあくまでも推算です。

例えば投資信託を10万円分売却したい場合で
投資信託の基準価額が1万口あたり8000円のときは
「10万円」÷「8000円」x「1万」=12万5000口 
が売却口数となります。

※純資産総額とは投資信託の規模、大きさを示す。組み入れている株や債権の評価額など
※基準価額とは投資信託の値段です。純資産総額÷総口数✕基準単位
※総口数とは保有者の持ち分の総合計です。純資産総額÷基準価額

4.自動的に受け取れる仕組化をする
お金を管理することが習慣になっていないようであれば、今から支出を管理する癖を付けることをオススメします。その上で毎年引き出して使える額を年1回や2回にわけて引き出します。そのお金を普通預金などにそのまま置いておくとついつい使いすぎてしまったり、逆に使うことに抵抗感が出てしまい、楽しくお金を使った生活ができなくなってしまったりします。

その懸念がある人には毎月一定額を受け取れる「仕組み」を作っておくと安心です。例えば、SBI証券には、「投資信託定期売却サービス」があります。例えば、積立投資で長年蓄積させてきた投資信託を、そのまま運用を継続しながら年金代わりに少しずつ売却して現金で受取るという形が作れます。「毎月コース」のほか、「奇数月コース」、「偶数月コース」から選択でき、希望により年2回まで「ボーナス月コース」の設定も別途可能なサービスです。申込金額は1,000円以上、1円単位で指示ができます。ただし、今のところ、このサービスは積立買付継続中のつみたてNISAの積立資産をそのままNISA口座で定期的に引き出すことは出来ないようです。積立設定解除をすればサービスが利用可能になります。

気をつけておきたいことがあります。使える金額を明確にしたいがために、毎年の引き出し金額を固定する方法で投資信託を売却する方法にはリスクがあります。資産形成のときには有効なドルコスト平均法の逆の手順で売却してしまうことになることです。

詳しく見ていきます。ドルコスト平均法は、毎月一定額を買い付けることで、基準価額が高いときに少しの口数しか買えないのですが、基準価額が下がったときには多くの口数を買い付けられるので、長い期間で見ると平均した買付単価を安く出来るというものです。

ということを踏まえると、定額で売却すると基準価額が高くなっているときは少しの口数が売却され、低くなっているときには多くの口数が売却されてしまうということになり、資産形成時と逆の効果を生み出してしまいます。運用状況が良くない時には元本の減りが大きくなるというリスクが生まれてしまいます。

元本が一番大きい状態から定額の定期解約サービスを開始した時に、相場が大きく悪くなると、その後に運用するための元本が大きく減ってしまいその後の運用効率が低下してしまうということが起こります。投資信託からの引き出しにも相場の影響があるということを忘れずに考慮しておきましょう。

そのリスクへの対応のアイデアとしては、定額ではなく、定率で売却することを基本として引き出すお金を試算することです。定率で売却することにして売却する金額を毎年調整するようにします。そうすると取り崩した後の新元本を元に次の1年の運用効果が反映されますから次の年の引き出す金額は運用成績により上がったり下がったりするようになります。しかし元本の寿命は長く保つことが出来るでしょう。公的年金や企業年金などと支出管理の上売却する定率を決めていくことがよいと思います。

売却したお金は、証券会社の預け金や銀行の普通預金口座に入れて、ご自身で毎月引き出して使っていきます。このような一連のお金の操作をすることを想定すると今ではネット銀行、ネット証券会社、キャッシュカード、電子マネーへのシームレスで手数料がかからないシステムを準備している金融機関をあらかじめ選定して今からメインバンクの変更なども検討できるテーマだとわかります。

老後資金計画に対する考え方をまとめる

  • 銀行口座はまとめておくこと、公的年金の受け取りや支払いの口座と貯蓄、運用の口座程度に
  • 証券口座はネット銀行、キャッシュカード、電子マネーとシームレスで手数料なしで使える金融機関に集約する
  • バランスシートを作成し所有していく金融商品の一覧表を作成しつつ、認証IDやパスワードを紙に書き出して保管する

くれぐれもお伝えしたいことは、資金運用は長期間に育てるものだということです。試算した引き出して使えるお金に対して期待していた暮らし方とのギャップがわかればそのギャップを埋める手段をより具体的にできるだけ早く考えていくことが本当の意味で価値ある資産形成、資産運用であると思います。決して短期間に増やそうとして投機に走らないでください。利率とリスクは比例します、さらに、利率を獲得するにはリスクを正しく理解する知識が必要です。勉強不足のまま他人に任せることは将来の資産に発生しかねないリスクを他人に丸投げすることになるのでとても危険です。信頼できるファイナンシャルプランナーとともに相談しながら対応することをオススメします。

/了